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仙台高等裁判所 昭和23年(ネ)61号 判決

控訴人

山本常松

被控訴人

福島縣農地委員会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

請求の趣旨

原判決を取消す、別紙目録記載の土地につき福島縣河沼郡野澤町農地委員会が昭和二十二年三月十六日作成した買收計画を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人において、福島縣河沼野澤町農地委員会は、本件土地につき昭和二十二年三月十六日買收計画を定め、同日その公告をした。本件贈與契約は昭和十年三月十日控訴人訴外遠藤富吉(原審における共同原告)代理人遠藤常五郞との間に爲され、その後これに関する書面(甲第一号証)の作成されたのは昭和十二年四月九日であつた。その当時右贈與に因る所有権移轉登記をしなかつたが、後日この登記を完了した。但しその登記の時期は本件買收計画の公告された以後である。遠藤常五郞が隱居したのは昭和七年一月二十一日である、被控訴人主張の訴の提起及び認諾調書作成の事実は爭わないと述べ、被控訴代理人において、控訴人主張の買收計画作成及びその公告の点、遠藤常五郞の隱居した日時の点、本件土地につき控訴人主強の贈與を原因とする所有権移轉登記のあつた点は何れも爭わないが、右登記は買收計画公告の後であるから、右所有権の移轉をもつて政府に対抗できない、控訴人が遠藤富吉を被告として提起した本件土地所有権移轉登記手続請求事件の口頭弁論において、富吉が控訴人の請求を認諾し、その認諾調書の作成されたのは昭和二十二年五月六日であると述べた(以下略)。

理由

(前略) (イ)町村農地委員会において買收計画を作成する場合に、何人をその土地の所有者として、その手続を進めるべきかというに、この場合には土地台帳又は登記簿等公簿の記載を標準とし、これに所有者として表示されているものを所有者として取り扱うより他に方法がないと認められるから、苟も右公簿上の所有者を所有者として手続を進めた以上は、実際上右公簿面に現れない所有権の移轉その他の変動があつたとしても右手続を有効と認めなければならない、(ロ)不動産の所有権の承継はその登記を経て初めて、その登記の時から之を第三者に対抗し得るのであつて、このことは第三者が政府であつても変りはない、(ハ)自作農創設特別措置法第十一條によれば、同法所定の買收計画は当該土地の所有権を承継したものに対してもその効力を有するのであつて、右所有権移轉登記の日が右土地の買收計画公告の後であることは、前記の通り当事者間に爭のないところであるから、右土地の右富吉から控訴人に対する所有権の移轉が実質上前認定のように昭和十年三月中に行われたのであつても、控訴人は右買收計画公告前に本件土地の所有権を取得したことをもつて、政府又は被控訴人に対抗することができない。從つて之を理由として右買收計画の取消を求めることは許されない。以上の理由により控訴人の本訴請求は之を棄却すべきである。よつて民事訴訟法第三百八十四條第八十九條、第九十五條を適用し主文の通り判決する次第である。

(目録省略)

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